血液生化学検査(各検査項目について)

 

BUN(blood urea nitrogen:血中尿素窒素、血中尿素量)

食餌から摂取したタンパク質は、タンパク質が腸内でアミノ酸へ、アミノ酸が腸内細菌によってアンモニアへ、アンモニアが肝臓で代謝を受けて尿素へと体内で変換され、腎臓の尿細管を通って尿から排泄されます。

 BUNの濃度は体のトラブルを起こしている場所により、腎前性(心機能障害、脱水、ショック、副腎皮質機能低下症など)、腎性(腎機能の様々な障害)、腎後性(尿道閉塞、膀胱破裂、尿道破裂など)によって上昇します。

 食餌性のタンパク質摂取の減少、慢性の肝疾患、著しい利尿の病気(尿崩症、副腎皮質機能亢進症)などでは低下がみられます。

 

CRE(creatinin:クレアチニン)

クレアチニンは大部分が筋肉内のクレアチンからの代謝産物で、一定のペースで産生され、一定のペースで排泄されます。クレアチニンは腎糸球体でろ過された後再吸収されることなく排泄されるので、糸球体のろ過能力の低下で上昇します。BUNよりも食餌の影響を受けにくく、腎機能を比較的正確に反映しています。筋肉量が低下しているときに低下がみられることがあります。

 

IP(phosphorus:リン)

リンの濃度はホルモン(副甲状腺ホルモン)の作用により腎臓から排泄されることで調整されています。

 犬猫の最も一般的な高リン血症の原因は腎不全です。他にも食餌や溶血(赤血球には多量のリンが含まれています)、上皮小体機能低下症、栄養性二次性上皮小体機能亢進症、ビタミンD過剰症、猫甲状腺機能亢進症などでも上昇します。

 一方、アルカローシス、上皮小体機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症、ケトアシドーシスを伴った糖尿病の初期などでも低下します。

 また、リンは体の中でカルシウムとの比がCaP112になるように調整されています。偏った食餌(ドッグフードの他に肉類を添加したものなど)はこのバランスが崩れ弊害をおこすことがあります(詳しくはCaのところで述べます)。

 

ALTalanine aminotransferase:アラニンアミノ転移酵素

かつてはSGPT 血清グルタミン酸ピルビン酸転移酵素

ALTは肝細胞の細胞質内に多く含まれている酵素で、肝細胞の障害や破壊がおこると肝細胞膜からもれだして血液中に放出されます。つまりALT値の上昇は肝細胞の障害を示していますが、数値が肝機能の程度を示すものではありません。

 副腎皮質ホルモンや一部の細胞毒性のある薬物の投与によっても影響を受け、数値の上昇がみられます。著しい溶血や脂肪血でも偽上昇を認めます。また、ALTは一部筋肉組織内にも存在するので激しい運動時にも上昇します。正常の3倍以上の上昇は25日以内の肝障害を示していますが、ALT値のみで肝疾患と断定することにはなりません。

 

ASTasparate aminotransferase:アスパラギン酸転移酵素

かつてはSGOT 血清グルタミン酸オキサロ酢酸アミノ転移酵素

ASTは犬猫では肝細胞と筋肉(紋筋)に多く存在し、一部赤血球に分布しています(ヒトでは赤血球中にもSGPTSGOTが多く含まれています)。

細胞のミトコンドリアに多量(約50%)局在し、細胞質には少量しか含まれていないので軽度な肝障害ではALT値だけが上昇しますが、重度な障害をうけるとAST値も上昇してきます。AST値の上昇だけでは肝障害か筋肉損傷によるものなのかは決めることはできません(後述するCKを測定することによって肝障害か筋肉の損傷なのかを見極めることができます)。

また、ALT同様副腎皮質ホルモンや一部の細胞毒性のある薬物の投与にも影響を受けて上昇し、溶血や脂肪血で偽上昇を認めます。

 

ALPSAP

alkaline phosphatase:血清アルカリフォスファターゼ)

ALPは肝疾患(胆管閉塞、胆汁うっ滞)や副腎皮質機能亢進症のときなどに検査をする項目の1つです。犬猫ではALPの酵素は主に肝臓、骨、小腸に分布しています。犬の場合は正常の23倍以上の上昇が認められると臨床的に「異常」と診断しますが(ALP値のみが軽度上昇し、その他の項目が正常範囲内で臨床症状もない場合は経過観察とします)、猫の場合はわずかな上昇でも「異常」と診断されます。

犬の場合ALP値は肝臓、ステロイドホルモン、骨、小腸など起因するものによって数値が大きく異なります。

肝臓に起因するALP値の上昇は肝内性または肝外性(膵炎、膵臓腫瘍、三臓器炎、胆石)の胆汁うっ滞性疾患によるものが多いです。ALPは肝細胞中には少なく微細胆管上皮に多く存在するので胆管閉塞により胆汁が逆流すると胆管上皮にダメージを与えてALP値が上昇し、同時にALTASTも高値となります。肝細胞の炎症、壊死、膿瘍の時はALTASTは高値でもALP値は数倍程度です。この場合は病気が進行してくるとALP値も上昇してきます。

ステロイドホルモンに起因するALP値の上昇は、投薬によるものも自分自身の体内のホルモンによるもののいずれも影響を与えます(ステロイドホルモン剤の長期投与や副腎皮質機能亢進症のときはALP値が2030倍になることもあります)。その他一部の薬剤もALP値の上昇をおこすことが知られています。

骨に起因するものとしては成長期の若い犬でALP値の上昇がみられることがあります(小型犬で上限または少し上昇、大型犬で22.5倍)が、成犬の正常値の2.5倍以上になることはまずありません。骨疾患による上昇も2倍程度までです。

小腸の疾患に起因するALP値の上昇はパルボウイルス感染症、急性胃腸炎、膵炎や他の小腸の炎症などと胆汁うっ滞があれば正常値の4倍くらいの上昇を示します。

猫のALP値の上昇を認めるものは、全ての肝疾患、肝リピドーシス、胆管炎、胆管肝炎、三臓器炎、甲状腺機能亢進症、糖尿病まれに骨疾患などです。

 

GGT、γGPT

(γ-glutamyltransferase:γグルタミルトランスフェラーゼ)

γGTPは細胞質内および膜結合性の酵素で多くの組織に存在しますが、腎臓および胆管上皮の一部に高濃度に存在し、骨には認められません。

ALPと同じように肝胆道系疾患(胆汁うっ滞)のときに上昇しますが骨には存在しないので骨疾患との鑑別にも用いられます。

猫では胆汁うっ滞の診断時にALPよりも有用です。

犬ではステロイドホルモンによってγGTPの値が上昇します。抗けいれん薬は数値に影響を与えません(ALPの値は上昇します)。脂肪血では数値が高く出ることがあります。

ちなみに、ヒトがお酒を飲むと肝細胞にダメージを与え、γGTPALTASTなどの酵素が漏れ出してくるため数値が上がります。つまり、どの程度肝細胞が壊れてしまったのかという指標となっています。

 

TBILtotal bilirubin:総ビリルビン)

ビリルビンは古くなったりダメージを受けたりした赤血球が、脾臓などで破壊されることによってつくられた胆汁中に含まれる黄褐色の色素です。

ビリルビンには脂溶性の間接ビリルビン、水溶性の直接ビリルビンの2種類がありますが、犬猫ではこれらの区分はあまり意義がないので総ビリルビンとして測定します(赤血球が壊されることによってできた間接ビリルビンは比較的毒性が強いのですが、肝臓で変化をうけることにより直接ビリルビンに変換され速やかに排泄されます)。

TBILは肝疾患や黄疸(身体検査で粘膜や皮膚が黄色化していたり、採血後の血清、血しょうが黄色化したりしているとき)に測定します。

TBILが高い値を示すのは「肝疾患」と「溶血性疾患」の2つが原因となります。「溶血性疾患」は病気、自己免疫疾患、薬物などで赤血球が大量に壊れてしまうときにおこります。黄疸は病態によって肝前性黄疸(溶血性貧血や腸内出血等、体内での出血などによるビリルビン産生の増加)、肝性黄疸(肝疾患によるビリルビンの取り込み不全など)、肝後性黄疸(胆管系の閉塞、破裂、胆汁うっ滞)などの3つに分類されます。

 

NH3ammonia:アンモニア)

食餌から取り込んだタンパク質は、消化管でアミノ酸に、さらにアミノ酸は腸内細菌によって毒性の強いアンモニアに分解されます。その後肝臓に運ばれて毒性のない尿素に変換され、腎臓から尿を通じて排泄されます。

アンモニアの値が上がると、その中枢神経毒性により「肝性脳症」とよばれる症状がみられます。

門脈シャント、肝硬変、重度の慢性肝疾患などで血中アンモニアの上昇がみられます。

 

TPtotal protein:総タンパク)

血清タンパクの大部分は肝臓で合成されています。TPとは血清アルブミンと血清グロブリンを合計したタンパクの総和のことです。

TPは血液の粘度や脱水の目安となります。また重度脱水、炎症、リンパ腫、骨髄腫、感染症などの時増加し、タンパクの喪失(腎臓・消化器からの喪失、創傷からの出血、火傷、膿瘍、手術後、筋肉壊死など)と、タンパク産生の低下(激しい肝疾患、食欲不振による飢餓、吸収不良など)と免疫疾患(グロブリン産生が低下するとき)などで低下します。

ALBalbumin:アルブミン)

 アルブミンは肝細胞でのみ産生され、血清タンパクの半分以上を占めています。慢性肝疾患ではアルブミンの合成が低下します。

アルブミンは浸透圧を維持したり、脂肪、薬物、ホルモン、カルシウムなどと結合して体内で運搬するトラックのような役目を持ったりしています。

アルブミンは脱水の時高値を示し、飢餓、寄生虫感染、慢性吸収不良性疾患、タンパク漏出性腸炎、慢性肝疾患、糸球体腎炎などのとき低値を示します。

 

GLBglobulin:グロブリン)

グロブリンはTPからALBをさしひいて求められる免疫に関連したタンパクであり、慢性炎症時に上昇します。グロブリンはアルブミンと異なり複数種類のものがあります。

高グロブリン血症には、1種類の抗体産生細胞が免疫グロブリンをたくさん産生したためにおこるもの(犬の多発性骨髄腫、リンパ腫など)と、抗体産生細胞と一緒に、肝臓で作られる「フィブリノーゲン」という急性相反応性タンパクも同時に増加する慢性炎症、肝疾患、または化膿性炎症などがあります。

低グロブリン血症の主な原因は出血やタンパク漏出性腸炎です。

 

GLUglucose:グルコース、血糖値)

グルコースは哺乳類にとって大切なエネルギー供給源であり、食餌から取り入れたり肝臓で作られたりします。血中濃度はいろいろなホルモンによって調整されています。

GLUが上昇する原因としては、ストレス(犬では250mg、猫では200350mgまで上昇)、治療のためのブドウ糖投与、一部の薬物、糖尿病などがあります。

糖尿病では、多飲多尿、体重減少、白内障などが、糖尿病性ケトアシドーシスでは嘔吐、下痢、食欲不振などが現れます。

GLUが低下する原因としては、小型犬(特に幼犬の低血糖:肝臓でのグリコーゲン貯蔵能力が低いためおこりやすい)、敗血症、菌血症、肝機能障害、一部の内分泌疾患、ある種の腫瘍、一部の薬物などがあります。低血糖時にはけいれん発作、虚弱、虚脱、方向感覚の喪失、沈うつ、視力喪失、昏睡などがみられます。

溶血、黄疸、脂肪血のとき測定誤差が出ることがあります。

 

AMYLamylase:アミラーゼ)

犬猫ではアミラーゼは主に膵臓で作られる酵素で、炭水化物を分解します(一部腸や肝臓でも作られています)。アミラーゼは膵臓から直接血中に入り、その後腎糸球体でろ過され尿細管上皮から再吸収されます。アミラーゼは嘔吐、腹痛、肥満、黄疸、腹水、膵炎の既往症があるようなときに測定します。

2(~3)倍以下の上昇は、上部消化管の炎症、腎臓の排泄能力の低下を示し、2(~3)倍以上の上昇は膵臓の炎症・壊死(膵炎)、膵管の閉塞を疑います(必要に応じてレントゲン、超音波検査も実施します)。小腸疾患、小腸破裂、肝疾患によっても軽度上昇します。

その他の検査で腎機能障害が除外されたとき膵炎を疑うことになります。リパーゼとセットで測定します。

 アミラーゼの測定値は脂肪血で偽低値、溶血により偽高値を示します。

 

LIPlipase:リパーゼ)

 リパーゼは主に膵臓で作られる酵素で、トリグリセライド(中性脂肪)を分解します。リパーゼは腎臓で不活化されます(一部膵臓以外の他の臓器でも作られています)。

 軽度の上昇は、上部消化器障害、腎不全による排泄減少、一部の薬物の影響などでみられます。正常の27倍の上昇は急性膵壊死、膵炎(48時間以内に上昇)でみられます。

リパーゼはアミラーゼとセットで検査をしますが、アミラーゼよりも長時間高値を維持する傾向がみられます。溶血、脂肪血では測定値が偽上昇します。

 アミラーゼ、リパーゼとも膵臓だけに限局する酵素ではないため、これらの酵素の上昇がすぐに膵炎を示すわけではないので、その他の検査と総合して診断します。

 

TLI(トリプシン様免疫反応物質)

膵臓からは微量のトリプシンが放出され、血中のトリプシン様免疫活性物質を測定することで膵外分泌不全を診断することができます。膵外分泌不全と吸収不良症候群(小腸の疾患の1つ)は、臨床症状では区別できないのでTLIの測定は重要なものになります。また、TLIは、急性膵炎の診断に用いられます。

TLI濃度は発症3日後には急速に低下するので発症早期に空腹時に採血して測定します。

 

フルクトサミン

フルクトサミンはグルコースとアミノ酸が反応することによって作られる糖化血清タンパクです。フルクトサミンは食餌、日内変動に影響されないので糖尿病のモニタリングに最適だといわれています。フルクトサミンが増加しているということは、持続的な高血糖が23週間前から続いているということを示しています(外注検査となります)。

 

Cacalcium:カルシウム)

体内でのカルシウムの役割は大きく分けて2つあります。1つは骨や歯の構成成分であること、もう1つは酵素反応、血液凝固、神経や筋伝達、筋収縮、細胞膜の透過性の調節に関与するミネラルであるということです。

高カルシウム血症になると、多飲多尿、嗜眠(眠ってばかりいる)、虚弱、衰弱、食欲不振、嘔吐、下痢などが、低カルシウム血症になると、神経質(不安、落ち着きがない)、けいれん発作、筋肉の振戦、疼痛などの症状がみられます。

高カルシウム血症の主な原因は、脱水、一部の悪性腫瘍、一部の内分泌疾患、腎不全、ビタミンDの過剰症などがあります。低カルシウム血症の主な原因は、低アルブミン血症(低カルシウム血症の代表的な臨床症状は示さない)、上皮小体(血中のカルシウムやリンの代謝に関係する内分泌腺)が関連するものが多いですが、他に腎疾患、産褥テタニ―(主に出産後の母犬が食餌からのカルシウム不足や、乳汁にカルシウムをとられてしまうことによっておこる、あえぎ、けいれん、ふらつき、意識混濁などを示す命が危険である状態)、急性膵炎などがあります。

測定値は脱水、脂肪血、溶血のとき偽上昇がみられることがあります。

 

カルシウムとリンの関係

リンのところで述べたように、体の中ではカルシウムとリンとの比が犬ではCaP1121、猫では1131になるように調整されています。偏った食餌(ドッグフードの他に肉類を添加したものなど)はこのバランスが崩れ弊害をおこすことがあります。タンパク質にはリンが含まれているため、動物たちが日常的に摂取する食餌(ドライフード、ウエットフード、動物用のおやつ類、肉、魚、卵など)でリンが不足することはまずあり得ません。しかし、カルシウムは全ての食材に豊富に含まれているわけではなく、吸収も悪いため体に入ってくるカルシウムとリンのバランスには不均衡が生じやすいのです。栄養バランスを考慮されたドライフードやウエットフード(総合栄養食の標記のあるもの)はすでにカルシウム・リンバランスをととのえてあるものなので、過剰な肉類の添加やおやつ、ごほうびのあげすぎなどはリンのとりすぎにつながります(一日に必要なカロリーの12割程度であれば心配ないとはいわれています)。過剰に摂取した分のカルシウム・リンバランスの調整はホルモンの働きにより、骨からカルシウムを抜き出すことによって一定のバランスに整えられます。日々カルシウムを放出し続けた骨は弱く折れやすく骨折しても治りにくくなってしまいます。レントゲンでもスカスカの薄くて弱い骨に写ります(栄養性二次性上皮小体機能亢進症)。猫のウエットフードも、嗜好性重視のため、総合栄養食ではないものが多く販売されています。それらは必ずドライフードと混ぜて与えてください。栄養性二次性上皮小体機能亢進症は、犬よりも猫に多い病気です。ドックフードを主食としていない犬も注意してください。

 

CKCPKcreatine phosphokinase:筋酵素、筋肉内酵素)

CKは骨格筋に一番多く、ついで心筋、脳、平滑筋に分布しています。CKは筋肉の障害があるときや全身衰弱のときに測定します。

筋肉の細胞膜を傷害する全ての状態で上昇しますが筋の障害の程度により、軽度(運動、拘束、筋肉注射など)、中等度(けいれん、外傷、神経障害)、重度(筋炎、猫の下部尿路閉塞など)のときCK値の上昇がみられます。

 

TCHOtotal cholesterol:総コレステロール)

コレステロールは主に肝臓で合成され(残りは食餌から供給されます)過剰なコレステロールは胆汁中に排泄されます。コレステロールは体内で最も一般的なステロイドであり、各種ステロイドホルモンや胆汁酸の合成のもとになる物質です。ヒトと違い、犬や猫ではコレステロールによる血管硬化はほとんど見られません。

高コレステロール血症は、食後、内分泌疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、クッシング症候群)、ネフローゼ症候群、膵炎、胆道の閉塞性疾患で認められます。

低コレステロール血症は、タンパク漏出性腸炎、消化不良/吸収不良、肝障害(門脈シャント、肝硬変)などのとき認められます。

一部の薬物により血中濃度が影響されます(上昇するものも低下するものもあります)。黄疸、脂肪血では測定値は実際の測定値は実際の値より高くなります。

 

TGtriglyceride:トリグリセライド、トリグリセリド、中性脂肪)

TGは体の中で最も多く含まれる脂質でエネルギー源となります。TGは肝臓で合成されるものと食餌から摂取するものがあります。

食後の血液では高TG血症がみられることがありますが(食後12時間まで出現)、絶食時にみられる高TG血症は病的な所見であり、内分泌疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症)、急性膵炎、ネフローゼ症候群などを疑います。時に飢餓でも高TG血症がみられることがあります。高TG血症は血清や血しょうを白濁させます(乳び、高脂血症、脂肪血)。高TG血症は、くり返す腹痛、嘔吐、消化器症状、てんかん発作などがみられることがあります。重度の脂肪血はいろいろな血液生化学検査の測定値に影響を与えます。胆汁うっ滞などの肝障害で高ビリルビン血症のときはTG値が偽上昇を示します。

 

TBAtotal bile acid:総胆汁酸)

胆汁酸は肝臓でつくられ、胆管を通り胆嚢にためられて腸管内に出て脂肪の消化吸収を助け、回腸でほとんどが再吸収されて肝臓に戻ります(腸肝循環)。肝臓に障害があると、胆汁酸が腸肝循環をはずれ、末梢血中に脱出してきます。

胆汁酸は、門脈シャント、肝硬変の末期で上昇します。胆汁は脂肪の消化に関係するので、検査をするときは、絶食12時間以上の空腹時と、食後(脂肪食)2時間のセットで測定して診断します(外注検査となります)。

 

Nanatrium:ナトリウム)

動物の体重の約60%は水で作られています。本来体内の水は、ホルモンや電解質による浸透圧調節により適正に保たれています。Naは主に細胞の外にある電解質ですが、Naの値がくずれるような原因があるといろいろな変調を示します。

Naの値が上昇する原因には、嘔吐、下痢、無飲症(渇感欠如)、充分に飲水ができなかった時の脱水(体内から自由水が過剰に失われたことによる脱水)、呼吸器からの蒸散(昏睡、高体温など)、腎臓や消化管からの水分喪失(腎臓:尿崩症、糖尿病、腸:浸透圧下剤)による脱水などがあります。

Na値が低下する原因には、下痢、嘔吐などの消化器症状、多尿、腎疾患による水分の再吸収障害(猫の慢性腎不全、老齢な猫など)、副腎皮質機能低下症、心不全、ネフローゼ症候群、糖尿病、肝硬変、交通事故などによる尿路破裂、膀胱破裂などがあります。

 

Kkalium:カリウム)

Naが主に細胞の外にある電解質であるのに対し、Kは細胞の中にある電解質です。Kも様々な原因によりバランスがくずれることでいろいろな症状(時に致死的)を示します。

K血症を示すのは、脱水、乏尿性や無尿性の腎不全、尿路の断裂、尿道閉塞、副腎皮質機能低下症、筋肉の大きな損傷(交通事故など)、糖尿病性ケトアシドーシスなどです。著しい高K血症は心停止をひきおこします。致死的な高K血症は、副腎不全や腎不全に続発することが多いです。

K血症となる原因は、主に嘔吐、下痢、腎臓からの喪失(猫の慢性腎不全など)、低体温、衰弱、薬物(インスリン、重炭酸塩など)、不適切な輸液療法などがあります。

 

Cl(chloride:クロール)

Clは細胞の外にある主要な電解質(NaKが陽イオンなのに対しClは陰イオンです)で、酸塩基平衡(血中のpHを適正に保つ)や浸透圧の維持に重要な役割をはたしています。

Cl血症をおこす原因は、小腸性下痢、腎不全、脱水などです。

Cl血症をおこす原因は、胃性嘔吐(胃液が出ることによるClの喪失)、副腎皮質機能低下症、利尿剤の使用などです。

 

 

 

参考文献

小動物の臨床病理学マニュアル(日本獣医臨床病理学会編  監修 小野憲一郎 髙橋英司:学窓社)

動物看護のための小動物臨床検査[上巻] 笠原和彦 監修 日本小動物獣医師会 動物看護士委員会:ファームプレス

 

勤務獣医師のための臨床テクニック~必ず身につけるべき基本手技30~ 監修 石田卓夫:チクサン出版社