不妊・去勢手術について

 手術は誰でも、何の手術であっても不安なものです。「全身麻酔をかけてメスを入れるなんて…」どうしても手術以外の方法がないならともかく、できれば避けて通りたいと思うものです。ましてや、不妊・去勢手術は、まだあどけない、半年令くらいの子犬・子猫たちに実施しましょう…などと言われるのですから。「もう少し大きくなってからでも良いかな」「一回出産させてからでも良いかな」「病気になって、どうしてもという時までは良いかな」「男としてシンボルをとってしまうのは残酷だ(特にお父さん達の意見です)」などと考えてしまいますよね。オスは男として、メスは女として自然な一生を送らせてあげたいと考えるのも当然のことです。それなのに何故、不妊・去勢という手術が広く行われるのでしょう? いろいろな雑誌や飼育書、自治体から配布される小冊子などで「実施しましょう」と呼びかけられているのでしょうか。
 ここでは、動物(犬・猫・ウサギ・フェレット)の性ホルモンに関連する習性・本能・生理・病気について、また、不妊・去勢手術のメリット、デメリットについて述べてみたいと思います。また、不妊・去勢手術は、全身の健康状態、身体検査、体格、問診、視診、触診、聴診、ワクチンの接種歴、発情の状況、術前の血液検査(一才未満の猫の場合、血液検査を省くケースもあります)で、健康チェックをして実施可能かどうかを判断し、全身麻酔下にて行います。術後は原則的にオス猫は当日、他は翌日退院となり、約一週間自宅看護となります。状況により(年齢、基礎疾患のある場合など)もう少し入院がのびることもあります。不妊・去勢手術をすることでQOL(生活の質)の向上や長生きが期待できるとも言われています。


犬の交配 ~赤ちゃんが欲しいですか?~

 「犬」は「犬同士」であれば交配・妊娠が可能です。極端な例では(自然交配が成立するかどうかは別として)セントバーナードとチワワのミックス犬を作ることも可能です。
犬たちは、それぞれの歴史の中で役割を与えられ、特徴を持った犬種に細分化されてきました。「犬」ほど同一種で大きさのバリエーションのあるグループはないのではないでしょうか。
 「犬」にも「純血種」と「交雑種(いわゆる雑種、ミックス犬)」があります。どちらも優劣なく、愛らしい、人間の友達です。しかし「純血種」には、その犬種に固有の歴史、特性、性質があり、健康の維持も考慮して、国際および国内の基準で認められたものを「純血種」として公認し、血統証を発行して、種と種の質を維持しています。
そのような背景を考えると、安易な気持ちや興味本位で故意に「交雑種」をつくるのは望ましいことではないと思われます。また、犬の産子数は、小型犬などは少なければ12匹のこともありますが(ただし胎仔数が少ないと胎仔が大きくなりすぎて難産になる傾向があります)、中型犬で4匹ぐらい、大型犬では10匹以上生まれることもあります。
 交配・出産は、飼い主もワクワクし子育てする愛犬やすくすく育っていく子犬たちを見守るのはとても楽しいことですが、子犬の「その後」についても考えてあげなくてはいけません。犬の一生には、食餌、消耗品、手入れ用品、おもちゃなどの他にも、一生に一度の登録、一年ごとの狂犬病予防注射、混合ワクチン、フィラリア予防、外部寄生虫(ノミ・ダニなど)や消化管内寄生虫(回虫、鉤虫、鞭虫など)の駆除・予防、万一の病気のときにかかる費用、毎日の散歩、犬種によってはトリミング代など、たくさんの労力とお金のかかるものです。犬を飼うと決めたら、その犬の「一生を引き受ける」という責任をもつ覚悟が必要です。生まれた子犬たち全員を一生責任を持って飼いとげることができますか? または、愛くるしいさかりに、友人や知人に譲渡したり、ペットショップに売ることができますか? 万一引き取り手が現れないとき、子犬たちを飼い続けられますか?
 また犬種の中には、充分な知識がない人が繁殖するのはやめたほうがよい犬種もあります。人気のある犬種で代表的なものの中に、毛色によって先天異常や致死的である組み合わせが知られているミニチュアダックスフントやシェットランドシープドッグがあります。これらの犬種は安易な繁殖(特に珍しい毛色の子の)は絶対に避けてください。また、その他の人気犬種でも、珍しい毛色同士の安易な交配は避けてください。近親交配や、血の近いもの同士の交配になってしまうかもしれません。遺伝疾患を持った子犬が生まれる確率が高くなってしまいます。その他にもチワワやフレンチブルドッグなどの、体に対して頭部の大きい犬種は、帝王切開による出産となることがほとんどなので、交配を考える前にもう一度これらのことを家族でよく話し合ってみてください。

犬の発情期の行動

 メス犬の発情期は、年2回程度、2週間から1か月くらいの発情出血を伴います。出血は目立つ犬と目立たない犬がありますが、いずれも陰部が腫脹し、オス犬を受け入れる準備が整います。この時期はオス犬をとてもひきつけるようになります。ドッグランやノーリードでの外遊び、トリミングなどはマナーとして避けたほうがよいでしょう。また、発情期終了後に「偽妊娠」といわれる、まるでつわりのような状態になり、食欲低下、嘔吐、下痢、精神的に不安定になり怒ったり咬むようになる、おもちゃやぬいぐるみを子供代わりにかわいがって離さない、乳腺の腫脹や乳汁の分泌がみられることもあります。「偽妊娠」は病気ではないので、時がたてばケロリと良くなりますが、発情期の前、中、後とも不調になる犬にとって、発情期が年に2回あることは、1年の半分くらいが不調を伴って過ごすことになります。
 オス犬は、決まった「発情期」はなく、年がら年中発情中、繁殖OKの状態です。発情期のメス犬のにおいにはいつでも誘惑されてしまいます。去勢していない犬のオスの行動は、発情期のメスのにおいに興奮する、メスを求め脱走する、他の犬への攻撃性、飼い主の足やものにマウンティングする、吠え続けるなどが見られます。これらは性ホルモンの影響によるものが多いといわれています。ただし、犬は頭がよく学習能力も高いので「学習してしまうと性ホルモンがなくなっても問題行動がなくならない」ということもあります。また100%が性ホルモンが原因とは限りません。ただし、上記のようなことを学習してしまう前に、行動抑制として早期に去勢手術を実施するのは有効だと考えられています。男の子として生まれて、本能的な繁殖行為の欲求が満たされないまま、誘惑され続けるのは可哀想かもしれませんね。経験のあるオスはいっそうフラストレーションがたまるようです。オスメスが同居している場合、メスと分けてもあらゆる手段を講じて、思いを成し遂げてしまうことも見受けられます。

不妊手術によるメリット(犬)

 メス犬の場合の不妊手術のメリットは、性ホルモンによる問題行動や、生理を抑えるということの他に、いくつかの病気を予防することができます。前述の健康チェックの上、全身麻酔下で各モニターを装着し、点滴をしながら両側の卵巣と子宮(もしくは卵巣のみ)を切除します。これにより、卵巣、子宮に関わる病気を予防できます。代表的なところでは、中年期以降の犬に時々みられる「子宮蓄膿症(子宮に膿がたまる病気。治療の第一選択は卵巣子宮切除術。発見・治療が遅れれば死亡することもある。)」「乳腺腫」という乳腺にできる腫瘍の予防ということもあります。犬は他の動物と比較しても乳腺腫が発生しやすいのですが、悪性・良性の比率はほぼ半々です。ただし複数できた乳腺腫のうち、一つだけが悪性であることもあり、注意が必要です。
 また、乳腺腫の予防のためには、「不妊手術の時期」がとても重要です。初回発情前に実施すれば、99.5%、1回目の発情後では92%、2回目の発情後では74%の確率で乳腺腫の発生を予防できるといわれています。ただし3回目の発情後もしくは2歳半以降では、乳腺腫の予防には効果がないと言われています。できるだけ多くのメリットを得るためには、小型、中型犬は6カ月くらいまで、大型犬は1歳くらいまでの初回発情の始まる前に不妊手術を実施するのがよいでしょう。このころは、体力も充分にあり術後の回復も良好です。また、発情出血がすでにあった場合、発情出血終了後2カ月は血管が発達し、出血しやすくなるので手術は実施できません。

去勢手術によるメリット(犬)

 オス犬の場合も、去勢手術は性ホルモンによる問題行動を抑えることの他にも、いくつかの病気を予防することができます。手術は前述の健康チェックのうえ、全身麻酔下で点滴をしながら各モニターを装着し、両側の精巣を切除します。予防できる代表的なものとしては、精巣の腫瘍、前立腺肥大(前立腺が大きくなることによって、血尿や排便困難、下腹部の痛み、体を触られるのをいやがる、怒りっぽくなるなどがみられる)、会陰ヘルニア(会陰部の筋肉が薄くなり腸や膀胱、前立腺などが入りこむ)、肛門周囲腺腫(肛門の周りにできる良性の腫瘍。大きくなると表面がくずれ出血・化膿・排便障害を引き起こす。腫瘍を切除する際、肛門括約筋を傷つけてしまうことが多く、便が垂れ流しになってしまう後遺症が残ることがある。経過とともに悪性化したり、切除しても再発の可能性もあり注意が必要)などです。これらのうち精巣の腫瘍は、特に精巣が2つそろって陰嚢に降りてきていない「潜在睾丸」という状態のオス犬で注意が必要です。「潜在睾丸」の犬の場合、下降していない片方(もしくは両方)の精巣は、腹腔内や鼠径部にとどまっています。精巣は温度の高いところは苦手なので、これらの精巣は精子はつくれません(両側潜在睾丸の犬は子孫は残せません)が、性ホルモンの分泌は行われます。つまりオスとしての行動は他の犬たちとかわりありません。しかし「潜在睾丸」の場合、正常なオス犬の場合よりも10倍以上精巣の腫瘍が発生しやすいと言われています。精巣の腫瘍の中でも「セルトリ細胞腫」というものは、骨髄抑制をおこし死亡してしまうこわい腫瘍です。腹腔内の精巣が気付かないうちに腫瘍化して、手遅れになってしまうのはおそろしいことです。「潜在睾丸」の犬は去勢を検討してみるほうがよいかもしれません。

不妊・去勢手術によるデメリット(犬)

~手術について~
 不妊・去勢手術を行った場合にも、もちろんデメリットもあります。全身の健康チェックを行ったうえで実施可能であると判断した場合にのみ手術は実施され、体調や性格、犬種によってどの麻酔薬をどのように組み合わせて、どれくらいの量を投与するのか、慎重に判断して麻酔をかけ、気管チューブを挿入して酸素および吸入麻酔薬を、モニターを確認しながら調節し、手術は行われます。いかなる場合も細心の注意を払って行うのですが、体質等によって予期せぬ薬に対する過敏反応が起きることがあります。その場合、手術を中止したり、急遽心肺蘇生術に切り替えることもあります。死亡してしまう確率もゼロではありません。動物の手術も人間の手術と同じようにリスクがあるということは、お話ししておかなければなりません。また、フレンチブルドッグ・ボストンテリア・シーズーなどの「短頭種」と呼ばれる犬種では、麻酔後に気道が閉塞してしまう危険性もあるため、他の犬種以上に注意が必要です。特にイビキをかく犬や太っている犬は要注意です。

~肥満について~
 不妊・去勢手術をすることによって飼い主さんが一番実感するデメリットは、肥満。つまり体重管理の難しさです。術後、代謝が変わりカロリー要求量が減少するのですが(それまでの2030%程度カロリー要求量が減ります)、性欲が無くなり本能的にその分食欲がUPします。縄張り意識が緩和され、のんびりゴロゴロしているなどの要因が肥満になりやすくさせます。一定の良質な食餌、規則正しい運動をすることによって理想体重は維持可能です。犬の理想体重は、1歳令のときの体重が目安だそうです。それは少々厳しくとも頭の片隅に置いておいてください。摂取カロリーにはもちろんフードの他に混ぜているもの、おやつ、人間のおすそ分け、ガム、ジャーキーなども含みます。食欲のまま与えるのは肥満一直線です。肥満は、糖尿病や関節炎、心臓病のリスクも上がるので気をつけてあげましょう。

~術中・術後のトラブル~
 大型犬や肥満傾向の犬は、他に比べて胸が深かったり脂肪が多かったりするため結紮が難しく、術中に出血しやすいことがあります。また、先天的に血液凝固不全傾向をもつ犬種(ジャーマンシェパード・ウェルシュコーギー・ゴールデンレトリーバー・ラブラドールレトリーバー・シェットランドシープドッグ・プードル・ビーグル・フレンチブルドッグ・ビションフリーゼなど)も知られています。多くは血のにじむ時間が長引いたり、傷口に血腫ができ治癒が長引くぐらいで止血不能となるようなことはありません。これらの犬種すべてが血液凝固不全を示すわけではありませんが、注意が必要です。血腫になりやすい、血が止まりにくいなどの過去がある犬は、手術を行うかどうかよく考えたほうがよいでしょう。
 その他、傷の自己損傷や充分な安静が保てなかったために、傷が開いて再縫合しなければいけないことが起きる可能性もゼロではありません。自宅での管理が不安な飼い主さんは、抜糸まで病院での入院管理も可能ですので、希望であればご相談ください。またごくまれに、手術のために被毛を刈った後に生えてくる被毛の変化や、発毛が認められない(ホルモンが関係した基礎疾患を持つ場合)などが生じることがあります。

~尿漏れ・尿失禁~
 高齢の犬、特にメス犬に尿漏れ(尿失禁)がみられることがあります。手術直後よりも時間がたってから(早くて数カ月、多くは数年から10年以上して)みられることが多いようです。特徴的なのは、起きて活動しているときには起こらず、寝ているときや興奮したときにチョロチョロと漏れ出てしまうことです。中~高齢メス犬の3割くらいでみられる症状ですが、不妊手術済みの犬の20%以上、特に大型犬や肥満傾向の場合で多く見られます。まれに若いメス犬や去勢オスでも見られます。高齢や不妊処置により性ホルモンが減少し、膀胱括約筋の収縮力が低下するためと考えられておりますが、卵巣子宮の切除を行った犬より、卵巣のみの切除を行った犬のほうが発症率が低い(子宮を取りまく組織が膀胱の位置も保持しているためという説もある)という報告もあります。しかし現時点でははっきり証明されておりません。

~縫合糸によるアレルギー反応~
 かつては、手術の際に、一般的で、体内に残す糸に絹糸が使用されていました。最近、この縫合糸による過敏反応が起きる可能性があることがわかってきました。この生体反応は抗生物質を内服すると一時的に改善するが、やめると再発を繰り返すというものでした。免疫が介在し、特にミニチュア・ダックスフントに多いと言われます。当院では少しでも反応しにくいように、犬の体内に残す糸は吸収糸(一定期間後に吸収され、なくなってしまう合成糸)を使用しています。それでも体質によってはこれらの糸に反応したり、無菌性の膿瘍が起こることもあるので術後の経過観察は重要です。

~発情回帰~
 手術時に卵巣をとり残した場合や、卵巣が正常な位置以外にある「異所性卵巣」、術後、ホルモンの分泌をおこなう「濾胞」の形成等により、「発情兆候」がみられることがありますが、これらの発生は極めて稀です。

猫の交配 ~赤ちゃんが欲しいですか~

 猫は、犬と異なり猫種間での大きさの差はあまりありません。猫も犬と同様に、純血種同士でも雑種とでも交配・妊娠が成立します。子猫は何と言っても愛らしく愛猫の育児を見守ることに、あこがれや幸せを感じることもあるかと思います。1回だけ出産させたい・・・とか、純血種の子猫を産ませて、この幸せを友人と分かち合いたい・・・とか。しかし、猫は不妊・去勢手術をしないと愛玩動物としては飼いにくい動物です。犬と比べると自宅で望んでの繁殖をするケースはあまり多くないかもしれません。メス猫は発情期が来て交尾が成立すると排卵し、年2回くらい出産します。環境が良ければ年に3回出産するケースもあります。1回の産子数は45匹(多ければ8匹位のこともあります)、生後半年もすると繁殖可能に性成熟します。子猫たちを不妊・去勢しないでそのままにしておくと、近親交配で(条件さえよければ)あっという間に100匹を超えてしまいます。発情期の猫にとって、相手がオスかメスかは重要ですが、親なのか子なのか兄弟姉妹かどうかは関係ないのです。欲求を満たしてくれる相手に、本能のまま身をゆだねるのです。また、家の中だけにとどまらず、自由に外に出歩けるようにすると他の猫たちとの交尾、出産、喧嘩、伝染病の蔓延、他人の家の庭や花壇、畑、公園等への糞尿汚染や、知らないうちに人の家に入り込んでしまうこともあります。可愛がって餌をあたえているだけでは猫好きとしては片手落ちです。食べたものは最終的には「排泄物」になります。そこまで責任を持ってください。また、なかには猫に対して重度のアレルギー反応を示す体質(皮膚症状、呼吸器症状、発熱など)の人もいるので、飼い主の知らないところで愛猫が他人の健康を脅かしてしまうこともあるのです。安易な餌付や繁殖は、病気になって死んでいく子猫や、施設に送られて殺処分になる猫たちを生みだします。猫を責任を持って健康的に飼うには、食餌、トイレ、トイレ砂等の消耗品、手入れ用品、爪とぎ、おもちゃの他に、病気予防のワクチン、外部寄生虫(ノミ・耳ダニなど)や消化器内寄生虫(回虫、瓜実条虫、マンソン裂頭条虫など)などの予防と駆除、万一の病気のためのお金など、費用もたくさんかかります。猫は犬と異なり回虫が寄生している場合、成猫になってからも糞便中に虫卵を排出し続けます。回虫卵は糞便に汚染された環境からの他にも、回虫が寄生している親猫から乳汁を通じて子猫にも感染します。知らないうちに家の中が回虫卵だらけ・・・ということも起きかねません。定期的な糞便検査、駆虫、予防が犬以上に大切です。
 また、純血種の交配で特に注意しなければいけない猫種があります。突然変異によって生まれた形質を固定したスコティッシュフォールド(耳が垂れている)、アメリカンカール(耳が外向きにカールしている)、マンチカン(短い手足をもつ)などです。これらの猫は「(特に末端部の)骨格異常」をおこす遺伝子を持っているため、安易な交配は厳禁です。折れ耳のない個体や交雑種との交配を選択する必要がありますが、それでも先天的に異常を持った子猫が産まれてしまうことがあります。なかでもスコティッシュフォールド同士、スコティッシュフォールドとマンチカンの交配は厳禁です。子猫を望む場合は、生まれてくる子猫、周りの人々の健康、幸せも考慮しながら、猫たちを可愛がってください。

猫の発情期の行動

 猫の場合、発情期に伴う行動は人間にとってあからさまな問題行動として現れます。メス猫の発情期は、年2回(場合によって3回)です。発情期になるとメス猫はソワソワしてオスを求め、大声で激しく鳴き続けます。冬の終わりから春の始めごろ、赤ちゃんが一晩中大泣きしているような声を聞いたことがありませんか?実はそれは赤ちゃんではなく、発情期のメス猫の切ない叫び声だったりするのです。発情期は交尾が成立するまで、少し途切れては、また大声でなき叫ぶことを繰り返します。猫は交尾排卵動物なので、交尾が成立するまで排卵は起きず、ずっとオスを求め続けます。時に脱走までします。色っぽく「ごろにゃん」と、悩ましいそぶりを見せつけたりもします。あまりに大声で激しいので、近所迷惑が気になったり、飼い主さんも夜眠れず、日常生活が立ち行かないほどになってしまいます(まれに控えめな猫もいますが)。オス猫の発情は決まった時期はなく、メス猫の都合にあわせていつでも繁殖OKの状態です。猫は犬のように社会性をもって順位を形成する動物ではなく、「自分のテリトリー」を死守する単独行動の動物です。「オレの縄張内の女は全部オレのもの。よそ者は手を出すな」と、常に縄張り意識でギンギンです。そのため去勢手術を行っていないオス猫は、つよい縄張り意識の他にも、他のオス猫への攻撃性、尿によるマーキング、(尾をたてて垂直な壁などに尿をスプレー状にして吹き付ける)スプレー行動、家におさまらず外に出て行ってしまう、発情期のメスを求めて脱走、交通事故、オス同士の喧嘩による外傷、伝染病をうつされるなどが起こります。特に未去勢のオスの尿の臭いはとても強く、室内でマーキングやスプレーされては人間のほうもたまらないような刺激臭です。

不妊・去勢手術によるメリット(猫)

 家庭猫の場合、不妊・去勢手術を行うメリットは、問題行動の阻止が第一でしょうか。他の動物に比べて猫の発情期の行動はあまりに激しく、家庭猫として飼うにはあまりにも飼いにくいからです。手術を行うことにより、メス猫の鳴き声はうそのようにおさまります。オスは、なわばり散策の癖がついている猫は、外を歩きたがりますが、縄張り争いからはずれるので、喧嘩や脱毛、交通事故のリスクが劇的に減少します。手術の時期が遅い場合、スプレー行動は「習慣」として残ってしまうこともあります。しかし、尿の臭いはガラリと変わり、子猫やメス猫と同じような臭気の弱いものに変化します。オス・メスともに性格が安定して、穏やかな甘えん坊になります。「子猫がえりした」というような印象を受ける方もあるかと思います。平均寿命は、手術をした猫たちのほうが圧倒的に長くなるようです。また望まない繁殖の防止や、性ホルモンが関わる病気の予防についてもメリットがあります。メス猫は望まない繁殖を阻止することは、最重要なメリットのうちの一つです。とにかく子猫の里親を見つけるのはとても困難です。(動物愛護相談センターで殺処分される猫はほとんどが子猫です)また、メス猫の病気の予防として、代表的なものに「乳腺腫」と「子宮蓄膿症(子宮の中に膿がたまる病気。治療の第一選択は卵巣子宮摘出術。発見、治療が遅ければ死亡することもある)」があげられます。猫の乳腺腫は、犬と異なりほとんどが悪性の腫瘍です。大きく広がり自潰、肺などに転移し、高い確率で命を奪います。乳腺腫に対する予防は、早期不妊が有効な方法です。6カ月令までに実施すれば91%、712カ月令までの実施で86%、2歳までの実施で11%の確率で予防が可能だと言われています。また、2歳以上で実施した場合には、乳腺腫の予防効果はないと言われています。手術は犬と同様、健康チェックを実施して、全身麻酔をかけて吸入麻酔薬および酸素を吸入させながら、モニター装置下で実施します。メス猫は両側の卵巣と子宮を、オス猫は両側の精巣を切除します。

不妊・去勢手術によるデメリット(猫)

~肥満~
 不妊・去勢手術を行った猫たちは、代謝が変わり、問題行動が無くなる代わりに、激しい発情や縄張り争いで消費していたエネルギーが使われなくなります。ごはんと昼寝、ひなたぼっこが趣味になります。代謝が変わることによってカロリー要求量が減少し、性欲がなくなり、本能的にその分食欲がアップします。体の必要カロリーは術前の2030%減少しているのに、食べることへの興味が増してゴロゴロしているので、体重管理は難しくなります。好物をたくさん器に盛って、好きな時に好きなだけ食べられるような食生活をしていると、いつの間にか5kgを超え、小顔のわりには下腹がたるんだ肥満猫になってしまいます。体を触った時に、肋骨が確認しにくかったり、ウエストが無くなってしまっているようでは、もう立派な肥満猫です。一定の良質な食餌を、人間が分量、カロリーをコントロールして与えることによって理想体重は維持可能です。猫の理想体重は、1歳令の時の体重が目安だそうです。それは少々というよりはかなり厳しい参考値ですが、頭の片隅に置いておいてください。摂取カロリーには、もちろんフードの他に混ぜているもの、人間のおすそ分け、かにかま、かつおぶしや煮干し(これらは塩分、ミネラル過剰にも注意です)なども含みます。おもちゃで遊ぶ猫もいますが、大人びてノリが悪くなってきた猫ちゃんには、フードを小皿にいれて、少量ずつ棚や出窓の上などに置き、食べるためには運動をしなければいけない環境をつくるのも1つのアイディアです。ただし、体格や器を置く場所によっては怪我をさせてしまうこともあるので、状況・状態をみながらやってみてください。フードは1回で全て与えるよりも、小分けにして何度も与えるほうが、摂取カロリーは同じであっても血糖値の上がり下がりが少なく、肥満の予防には効果があります。好み、体調をふまえたうえで、カロリーが低めのものを選んであげてください。肥満は、糖尿病のリスクも上がりますし、体格の良い(太った)猫が体の不調や精神的なダメージなど何らかの要因で食欲不振になると、「肝リピドーシス」という肝細胞が脂肪に置き換わってしまう病気になる可能性が出てくるので注意が必要です。3日食べられない場合はかなり危険です。病気が進行し、肝酵素の数値の上昇、黄疸がでて死亡してしまうことがあります。重度の肝リピドーシスの救命率は大変に低いものです。飼い主さんの体重管理、食餌管理にかかっています。健康で長生きさせてあげましょう。

~発情回帰~

 犬のところでも述べましたが、ごくごく稀ですが、特異体質をもつ猫の中に卵巣が正常な卵巣以外の場所にある「異所性卵巣」というものが報告されています。この場合不妊手術後にも卵巣が残っているため、発情兆候がみられるようです。再手術が必要になりますが、卵巣を探すのは困難かもしれません。

ウサギ

 ウサギは1回の出産で平均68匹出産します。また、野生のウサギは年に56回出産し、食肉用のウサギは年に8回出産も可能です。ペットとして飼われているウサギは繁殖させるケースは少ないと思いますが、オス・メスが同居で環境が良い場合、とても飼いきれないほどに増えてしまうので、赤ちゃんが欲しい方はよく考えてみてください。自然界で食物連鎖(食う食われるの関係)で一番下に位置し、自分は草を食べ、角や牙などの武器を持たず、常に肉食動物に命を狙われているウサギは、種を存続するためにたくさんの子孫を残す手段を選んだのでしょう。一方で、人間にペットとして飼われるようになったウサギは、「たくさん子供を産む体」を持ちながら繁殖が制限されてしまいます。そのため、犬や猫などとはまた異なる特徴や、なりやすい病気があります。ウサギの特性を理解したうえで、不妊・去勢について考えてみてください。

ウサギの発情

 ウサギのメスは猫と同じように交尾排卵動物(交尾をすることによって排卵する)です。ただし、年23回発情期が訪れる猫と異なるのは、発情期がとても長いということです。時々12日の休止期があるだけで、他はほとんど発情期(交尾可能な状態)です。オスも1年中交尾可能な状態です。メスの小型種の性成熟は約4ヵ月令、中型種で約5~6ヵ月令です。オスはそれより性成熟の時期は1ヶ月ほどおくれます。性成熟に達したメスとオスを一緒にすると(ウサギたちがリラックスできる環境にすると)すぐに交尾活動が始まります。また、すでに妊娠しているメスのところにオスを入れると、メスはオスを激しく攻撃します。赤ちゃんを望む場合は、オス、メスを一緒にする必要がありますが、常に同居させていると、前述のように次々と増えてしまいます。また、増えるのを阻止するために、今まで同居していたウサギたちを急に別々に分けてしまうと、今度は寂しがってストレスになってしまいます。ストレスは食欲不振をはじめ、万病のもとです。また、飼い主への攻撃行動としてあらわれることもあります。そのため、オス、メスで飼育するときは常に一緒にせず、始めから別々に飼育し、交配するときだけ一緒にするという方法がよいでしょう。また、ウサギは同性同士の場合、激しいテリトリー争いになることが多く見られます(オスはメス争奪戦に備えた縄張り争いのため、メスは安心して出産・子育てができるテリトリー確保のため)。ウサギは一般的におとなしい動物と思われていますが、ウサギ同士、同性同士の場合は、眼を疑うような激しい喧嘩になります。毛をむしられ、耳を食いちぎられてしまうことさえあります。オス、メスの場合でも基本は別飼育ですが、常に発情の衝動にかられているウサギが身近に相手を感じながら交尾ができない欲求不満のストレスは相当のものです。複数飼育の場合、できればオス、メスとも不妊・去勢してあげたいものです。もしくは1匹のみの単独飼育が良いでしょう。煩悩とテリトリーを死守する使命から解放されて仲良く心穏やかに暮らせるのは幸せなのではないでしょうか。

不妊・去勢手術によるメリット(ウサギ)

 メスウサギの場合は、ペットとして飼育されている動物たちの中でも、不妊手術をすることのメリットはトップクラスに多いと思われます。なにしろウサギは年がら年中発情しっぱなしの特殊な生理を持っているので、繁殖・出産なしに過ごすのは、体にとってとても不自然なことになってしまうのです。その結果、5歳以上のメスウサギの子宮疾患の発生率は80%以上にのぼるとも言われています。(子宮疾患とは、子宮内膜過形成、子宮腺がん、出血性子宮炎、子宮水腫、子宮筋腫、子宮蓄膿症、細菌性子宮炎などです。犬などに比べて子宮疾患といっても感染による子宮蓄膿症が占める割合は、それほど高くありません)まず、メスウサギを飼い始めたら、「不妊手術をしない場合、将来子宮の病気になってしまう」くらいのつもりでいても思いすぎではないかもしれません。犬・猫の生殖器疾患の発生率よりもはるかに高率です。前述した子宮疾患は、血様の分泌物がみられることにより、発見されます。尿に血液が混ざっているので、「血尿」と間違えやすいのですが、「血尿は全体的に血液が混ざった均一な色」をしているのに対し、子宮疾患でみられる「血様分泌物」は尿に血液が混ざっている(肉眼的に血が混ざっている部分があると確認できる)ものです。スノコや床に「血液と尿があった」とか、「血がついていた」などという場合も同じです。ウサギは膣部が広いので生殖器からの不正血液が膣部に貯まり、尿をしたときに一緒に流れ出てくるので、そのような状態になります(ちなみにウサギの尿は、食べ物により「ポルフィリン」という色素でオレンジ色~赤茶色っぽくなることがあります。さらに尿には炭酸カルシウムの結晶がみられることは普通なので、犬猫と違い、尿に白っぽいものが含まれて濁っていても問題のないことが多いです。食欲不振の場合、尿が濁らずに透明なものだけのこともありますが、それは心配な尿です。ただし、ウサギにも膀胱炎や尿結石症は起きるので、心配な時は尿検査やレントゲン検査をします。尿検査により血尿とポルフィリン尿との鑑別は可能です)。ウサギの生殖器からの出血は、抗生物質や消炎剤、止血剤等の内科的治療では治療効果は期待できません。手術による卵巣子宮摘出術のみが唯一の根治療法となります。悪性である子宮癌も初期は無症状で、食欲・元気にも変化はありません。不正出血(尿への血様分泌物の混入)のみが徴候のことも多いです。早期発見で卵巣子宮の切除術を行った場合は、死亡率が低くなります。進行すると腫瘍が肺に転移し呼吸困難を起こし死亡することがあります。食欲・元気の低下が見られてからでは手遅れです。2歳以上のメスウサギで血尿かな?と気付いたもののうち9割くらいが子宮からの出血です。子宮疾患は、腫瘍性のものでも非腫瘍性のものでも出血のみが飼い主さんが気付く唯一の変化で、食欲、元気も良好であることが多く、「膀胱炎かな?」という感じで来院されることが良く見られます。しかし手術をしてみて「思っていたよりも病気は悪い状況だった」と驚かれる飼い主さんも多いです。また病気ではありませんが、乳腺の発達や自分の毛を抜いて巣作り行動を示す「偽妊娠」を起こすものもいます。去勢済みのオスや他のメスにマウンティングされるなどをきっかけに「偽妊娠」が起こることがあります。
 ウサギは、脂肪がよく蓄積する動物で、特に内臓脂肪が多いので(内臓脂肪が多いと、術野も見にくく、結紮もしにくく、出血もしやすくなります。手術時間も長くかかってしまいます)、ウサギに負荷が少なく、体力があり、より安全な手術を望むのであれば6ヵ月令~1歳令くらいの間に不妊手術を実施するのがよいでしょう。
 病気の予防以外にも長期的な発情のストレスから解放して不安定な精神状態からリラックスした状態にしてあげるというだけでも、充分メリットはあると思います。
 不妊手術は、健康チェック、血液検査を実施し、手術可能と判断されれば全身麻酔下で点滴をしながら開腹し、両側の卵巣と子宮もしくは両側の卵巣のみを切除します。犬や猫と大きく異なるのは、麻酔の直前まで食餌を与え、覚醒後もすぐに食餌をとれる状況にしておくことです。
 オスウサギの場合、病気の予防としては、あまり発生率は高くありませんが、時々精巣の腫瘍がみられるので、去勢手術で防止することができます。その他のメリットは、縄張り主張、けんか、外傷性の膿瘍(ウサギの膿瘍は硬結し、抗生物質が届きにくく難治性です)、性的ストレス、スプレー行動、望まない妊娠の防止、飼い主に対する狂暴化、攻撃性の抑制などがあります。複数飼育の場合のほうがより問題行動は顕著に現れますが、上記のうちいくつかは同様なことが単独飼育で問題になることがあります(もちろん問題行動の全てが性的ストレスが引き金というわけではありません)。また性的ストレスは、単独飼育の場合は複数飼育に比較したら少ないですが、もちろんゼロではありません。尿スプレーは去勢手術により90%くらい消失するとも言われています。
 ウサギのオスは4ヵ月令くらいから去勢手術を行うことが可能ですが、理想の実施時期は6ヵ月令~1歳令です。またウサギのオスは去勢手術実施後もしばらくは副生殖腺に残った精子によりメスを妊娠させることが可能です。去勢後1ヶ月以上経っても妊娠したという例もありますので、少なくとも6週間はメスと隔離してください。去勢手術は、健康チェック、血液検査を実施し、手術可能と判断されれば全身麻酔下で点滴をしながら、両側の陰のうの皮膚をそれぞれ切開し、精巣を切除します。メス同様麻酔の直前まで食餌を与え、覚醒後もすぐに食餌をとれる状況に管理します。

不妊・去勢手術によるデメリット(ウサギ)

 オス・メスに共通するデメリットとして、肥満・体重管理の難しさがあります。肥満は、心肺機能や骨格系に負荷をかけるだけではなく、四肢の着地面に炎症や潰瘍を起こす足底潰瘍(ソアホック)を引き起こします。足底潰瘍は、金網や硬すぎる床材などで発症しますが、肥満による体重過多の場合は危険度が増します。ウサギの足底潰瘍は悪化している場合、難治性のものが多く見られます。体重の管理は不妊・去勢前に比べて摂取カロリーを2割くらい減らす必要があります。良質なラビットフードを選び、パッケージに記された量を参考にして計算してみてください。ラビットフードの他には、食べたいだけ充分な牧草(チモシーなど)、少量の野菜や果物などを与えてください(柑橘類は下痢や軟便を引き起こすことがあります)。コロコロの糞が1日200個以上出るのがひとつの目安です。また、麦類やビスケット等の炭水化物は(好むウサギは多いですが)過給により消化管内にガスが発生し、食欲不振や排便停止、状況によっては数時間で死亡してしまうこともありますのでお勧めできません。またメスウサギには、不妊手術後に尿漏れ・尿失禁が見られることがあります。犬でも不妊手術をおこなった2割くらいでみられる症状だと述べましたが、ウサギのほうが発症率が高いようです。なかには、内服薬でコントロールしてあげる必要が出るケースもあります。

フェレットの場合

 ペットとして飼われる動物の中でもフェレットのメスのように発情期が半年以上続き、排卵しないとホルモンの影響を受け続け(持続したエストラジオールの高値)、その結果、脱毛や骨髄抑制が起こり、死亡してしまうことがあるため、すでに不妊処置済みで市場に出回る動物もあります。フェレットのオスは、性格を穏やかにしたり、繁殖期の皮脂腺の分泌物の臭いを軽減するために、メス同様去勢済みの状態で市場に出ます。俗にスーパーフェレットとして売られているものは、不妊・去勢手術と肛門腺の除去が済んでいるフェレットたちです。ヨーロッパ生産のものは半年令以内、早期不妊・去勢の考えが浸透しているアメリカ生産のものは4~6週令で処置を行うようです。

まとめ

 不妊・去勢手術は義務化されているものではありません。上記のような情報をご家族で共有され、よく話し合ってみてください。不明なこと、わかりにくいこと、「うちの子の場合はどうなのか?」などありましたら、なんでもご相談ください。推奨される時期が過ぎていたとしても実施することはその年齢なりにメリットもあるものです。心配しないでください。動物とともに幸せの多い日常を送ってくださいね。