マダニについて

 

「寄生虫」というとどのようなものを思い浮かべますか?

誰もが知っている寄生虫というと、(おなかに寄生虫を持った)猫が砂場に糞をすることで子供たちへの感染が心配される「回虫」、イカやサバ、サンマなどの生食で時々問題になる「アニサキス」、北海道のキタキツネたちが(犬もですよ!)感染に関わり、人に肝臓癌と間違われるような病気を起こす「エキノコックス」、ヒモのように長い虫体が節々に分かれ、片節ごとにちぎれてモゾモゾ動く「サナダムシ」の仲間が有名でしょうか。あとは、犬を飼っている人達には忘れてはならない、蚊が感染に関与し、心臓に虫が寄生して大切な愛犬の命を脅かす「フィラリア(犬糸状虫)」などもあります。ちなみに、フィラリアは猫、フェレットなどにも感染します。

今あげた寄生虫たちは(上記以外にも多くの予防・駆除すべき寄生虫はいっぱいいますが)、全て体の内部に寄生する『内部寄生虫』というグループです。それに対して、体表に寄生する虫を『外部寄生虫』といい、ノミ、マダニ、シラミ、ハジラミ、疥癬(かいせん)、アカラス(毛包虫、ニキビダニともよばれます)、ツツガムシなどがそのグループになります。

最近、ニュースでマダニにかまれることが原因で感染するとみられる「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」による人の死亡例が報じられ、問題となっています。2017年の7月には野良猫に咬まれた女性がSFTSに感染し、死亡したというショッキングなニュースもありました。さらに、10月には犬から人に感染した事例が報道されました。それにより201710月現在、哺乳類を介した人へのSFTS感染の報告は2例目となりました。直接マダニにかまれるだけでなく、犬や猫の血液や便を通じて感染する恐れがあるとして、粘膜からの感染の可能性も疑われています。まだSFTSについてはわからない部分も多いので今後も最新情報には注意が必要です。今の時点で言えることは、人も犬も猫も、命を守るためにはしっかりとマダニへの対策をたて、予防できるものは予防したほうがよい、ということでしょうか。

SFTSウイルスは、今のところワクチンや特効薬もなく、マダニの恐怖があらためて人々のあいだに広まっています。しかし、このSFTSウイルスは新たに注目されはじめたものですが、以前からマダニが関係する病気は人畜共通感染症でも複数知られていました(日本紅斑熱、Q熱、ライム病、バベシア症、野兎病(やとびょう)、ダニ媒介性脳炎など)。犬や猫でも、犬バベシア症や猫ヘモバルトネラ症などは、マダニが関係する命を脅かす重要な病気です。

マダニにもいろいろな種類がありますが、ここでは私たちが公園や河原、道端、キャンプなどで出会う可能性の高い種類について説明します。(ちなみに、アレルギーの時によく問題になるハウスダストマイト(イエダニ)は、マダニとは違うグループで、吸血はしません。)

マダニは、卵→幼ダニ(1mmくらい)→若ダニ(1.6mmくらい)→成ダニ(34mmくらい)という発育をし、幼ダニは足が6本、若ダニ、成ダニは足が8本、つまり、昆虫ではありません。

マダニは草むらの中に潜み、人や動物の体温、振動、二酸化炭素などを感知して草の先から飛び移り、吸血をします。そして、各ステージともおなかいっぱい吸血したら宿主の体からポロリと地面に落ち、脱皮をして次のステージになり、また草の先で新たな吸血相手を狙っています。寄生部位としてよく見つかるのは、指の間、わきの下、首、おなか、耳、目の周りなどの毛の薄い部位です。大量寄生の場合は所かまわずです。

幼ダニ、若ダニ、未吸血の成ダニはとても小さいので、見つけるのは難しいのですが、おなかいっぱい血を吸った飽血成ダニは78mm以上になり、イボや赤黒い豆のように体にはりついているので、見つかりやすくなります。そして、おなかいっぱいになると動物の体の上で交尾し、ポロリと地面に落ちて卵を産みます。マダニの吸血は、ハサミ状の口でかみついて皮膚を切り裂き、ギザギザの返しのたくさん付いた口器を動物の体内にさしこみ、周りをセメント状の物質で固め、始めはゆっくりと、そして2日程すると急速にたくさんの血を12週間以上かけて吸い上げます。その間、動物に気付かれないように、痛みを感じさせない物質の含まれた唾液を動物の体内に送り込みます。種々の病気は、ダニが急速に血を吸い上げる時に感染が成立します。

マダニを見つけたら、速やかに排除したいのですが、上記のようにがっちりと口器を差し込んで固定しているので、虫をひっぱってとるだけでは口器がちぎれて動物の体に残り、皮膚炎や化膿を引き起こすことがあります。マダニをみつけたら、無理をして取ろうとせず、動物病院を受診して下さい。

マダニは動物の体と環境を行ったり来たりするので、完璧に寄せ付けないのはとても難しいことです。まずは、マダニのいそうな場所に近づかないこと。散歩後に丁寧にブラッシングすること。それに加えて、マダニを駆除する動物用医薬品を使用するのも有効でしょう。

マダニの駆除薬は、背中に滴下するもの、飲ませるもの、首輪などがあります。残念ながら今のところ、1剤だけで100%マダニを寄せ付けない薬はありません。滴下剤もマダニが吸血し始めのゆっくりと血を吸っているときに、薬がマダニの体内に取り込まれ殺すものです。薬だけでなく飼主さんの動物の観察も大切です。

これからマダニの活動が活発になる春から秋に、マダニがたっぷりと血を吸って、まるまると太り、動物に病気をうつす前に駆除してしまいましょう。そのためには定期的な予防を行うことが重要です。